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采配のゆくえ個人ファンサイト。三成、吉継贔屓に活動中。
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吉継さんと豊久さんがお茶を飲んでいるお話です。
長いので下に収納してあります。
ぽちっと押してお読み下さい。



 *****
* * * * * * * * * * 



「え」


素っ頓狂な声。
それは豊久のものだった。





あのについてろう。






「あれ。知らなかったのかい」
「はあ…。なんというか。想像もつきませんでした」


大阪城。その茶室で。
豊久と吉継が向かい合わせに座っていた。
吉継の立てた抹茶を二人で美味しく頂きながら、互いの近状についてあれこれと報告し合う。
恒例の、年に数回ある報告会。この時だけ、過去西軍東軍に分かれて戦い合った者達が全員大阪城にと集結する。
勿論来れない者も在るが、出来る限り豊久はこの会に出席をしていた。礼儀としての出席が理由半分。懐かしい顔ぶれを見る事が、密かな楽しみだった事も理由半分だ。
時間には厳しい二人組が、まだ来ない相手を待つ間、茶でも。となるのは自然な流れで。
八月の日差しが注ぐ中。庭に面した茶室の中で。二人は抹茶と茶菓子を前にのんびりと語らっていた。
話題となったのは、この茶菓子だ。夏に相応しい瑞々しく、美しい水羊羹。
白い手袋に包まれた指先が、すいっと水羊羹を切り分ける。
その欠片を口に運んで、吉継はふふふ、と柔らかく笑った。


「まあ、わからなくもない。あれは、そういうのが好きそうに見えるからね」
「…ふん。そうですね。一見すればまるで子供のようですから」


豊久も羊羹を切り分ける。
口の中に入れれば、ふんわりと香る小豆の味と。上白糖の甘味。
一口食べてまずこれは美味い。と思った。そして、あの人が食べたら喜ぶだろうな。と続けて思った。ぽろりと「石田殿が来たら喜びそうですね」と呟いた豊久の言葉に、「ああ、三成は甘味が苦手だよ」とさらっと吉継が告げたのはつい先程の事だ。
あの言動。あの行動で全体的に子供っぽく見えてしまう三成に、子供=甘いものが好き。という思い込みをしていた豊久はそれに大きな衝撃を受けたのだが、よくよく考えてみれば三成が甘味を食べている所を、豊久は目にした事はない。


「それでも、勧められれば食べるのだけれどもね。たまに、どうしても頭の回転が鈍くなったりすると、金平糖くらいなら一粒、二粒は食べたりもするみたいだが。それでもあまり食べたりはしないな。あれは果物の甘さは好きだが、菓子の甘さは苦手らしい」


ぱちり。と扇子を広げて口元を隠す吉継。見えなくてもわかる。その奥の口元は笑っている。
親友について語る時、この人はいつもこうだ。この上無く楽しそうに。幸せそうにそれを口に出す。


「…わかりませんね。果物も。砂糖も。味覚としては同じ「甘味」じゃないですか」
「本人曰く、違うらしいよ。菓子は、人の手で作り出されるもの。果物はそれだけが甘い味をしているもの。自らだけで甘いものと、誰かの手で甘くさせられたものとでは、感じ方が違うらしい」


『吉継。だからって俺は菓子を毛嫌いしているわけじゃない。色々な味を組み合わせ、食べ物をより美味しく作り出していく職人技は素晴らしい事だと、俺は思う。だから菓子も食べたいんだが。どうも、舌が』


鈍るような気がするんだ。とがっくり項垂れた三成を思い出し、吉継の肩が小刻みに震える。
元々、三成は凝った味付け、というものが苦手だ。塩だけで焼いた魚とか。塩だけをつけた茹で野菜とか。もいですぐに齧り付く果物などを何より愛している。
それは、人に対しても言える事で。
虚構と虚実。煌びやかな嘘の溢れる政という場所の中で、彼はいつもその人の本質だけを見詰めて采配を振るい続けていた。三成が好むのは肩書きでも、血統でもなくその「本質」。余計な味付けはいらず、その素材の良し悪しで全てを判断する。
食べ物でも人でも過剰な味付けを嫌うのは、本質が見えにくくなるからなのだろう。
それを吉継は口には出さない。
意地悪半分。後はそんな三成が懐いた人物なのだから、ほっといてもそのうち自力でそこまで辿り着くだろう、という気持ち半分だ。
あれから幾つもの季節を跨いだ。
秋が過ぎ。冬が過ぎ。夏が来て。一年が過ぎて。
そして今また夏が来ている。
あの戦が行われていた季節が来るのはもうすぐで。
自分も。目の前に居る相手も。あの戦で瀕死の重傷を負ったものの、こうして回復して懐かしい茶飲み話をするまでになった。
この体は後幾つ、季節を乗り越えられるだろうか。
――それでも。あの状況を乗り越えられた自分なのだから。
まだまだ生きられるような気がしているのも事実なのだ。

後ろ向きだった考え方が、百八十度変わってしまったのも、あの本質を見据える目を持つ男の影響なのだろう。


「…ふん。それにしても。皆遅すぎますね」
「皆、それぞれ用事があるのだろう。仕方ないさ。…もう一杯、如何かな?」
「頂きます」


吉継の茶は美味しかった。すぐさま反応し、即答する豊久に見られないように、吉継は笑う。
ああ。あの茶会の時とは。季節も傍に居る人間も。そして自分自身も変わった。
死に場所を探していた。死ぬ理由を探していた。
だからあの時死んでもよかった。自分の命が有効に扱われればそれでよかった。三成ならなんとかしてくれるだろうと、信じた。
そして。
今こうして、予想以上の結果となって自分はまだ此処に居る。


「……大谷殿」
「なんだろうか。茶菓子のおかわりも、用意させようか?」
「いえ。そうではなく。良ければ、もっと聞かせて頂けませんか」
「ん?」
「…その。石田殿の事を」


ぱちん。と扇子が閉じる。
面白そうな双眸が、豊久を見詰めていた。
色素の薄い目は何を考えているのかわからなくて。少しだけ、豊久はどきりとする。


「惚れたかい?」
「は…。は!?」
「いやいや。独り言だ。じゃあ、そうだな―…」


思案気に、ふいと障子の向こうを見る。まだ日は高く、午後からの定例会には時間がある。大丈夫だろう、と瞼に感じる光で時刻を判断し、吉継はとつ。とつと語り始めた。相手の知らない、己だけが知る、三成の話。
惜しみなく。
低い声が、茶室に響く。


惚れるのは仕方無い事なのだ。
ここは彼に惚れた者達が集う場所なのだから。
自覚あるにせよ。まだ無自覚にせよ。自覚を否定するにせよ。
時間は、在る。その人が来る。それまでの時間。
あの人を待ちながら。あの人の事を語ろう。
それは、その人がくれた。かけがえのない時間。




さあ、何から話そうか。


* * * * * * * * * * 

(語っても。語っても)
(きっと、話は尽きない)






* * * * * * * * * *

吉継と豊久。全員生存後の世界。
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